ユーロ高へ向かうケース
景気が上向き基調となっている
2018年1月時点でのユーロ圏の消費者物価上昇率は、前年同期比で1.3%となっています。長年のECBによる金融緩和政策の効果もあり、緩やかなインフレ基調が続いています。ECBのドラギ総裁は、公には金融緩和政策の打ち止めについては明言していませんが、2018年中には早ければ金利を引き上げる可能性も取りざたされています。
このため、ユーロ高が継続する可能性が高まっています。FXトレーダーの方へは、ユーロをトレードする場合には、常にユーロ圏の消費者物価上昇率とECBの金融政策に注視されることを、おすすめしたいと思います。
ドイツの動向
EU経済のポイントは、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツの動向にあります。地政学的には、ドイツはロシアとの間にポーランドやベラルーシという緩衝地帯がありますし、軍事的にはNATOの傘下に入っているため、国内の経済問題や社会問題に専念できる状況にあります。
そのうえ、ドイツには第二次世界大戦における負の遺産が重くのしかかっているため、ドイツは単独国家としてではなく統一ヨーロッパの一員として行動することを望んでいます。このため、ドイツが引き続き今後もEUの一員として、EU経済の中核に位置する国家として行動するならば、EUの経済は上向き基調を維持し、通貨ユーロも高くなっていくと予想できます。
ユーロ安へ向かうケース
EUがヨーロッパの統合体として不成立に終わる場合
二度にわたる世界大戦を経験し、国土の壊滅を経験したヨーロッパ各国は、現代社会においても再編の途上にあります。そして、ヨーロッパの再編が平和裡に進むかどうかは予断を許しません。EUは存在しますが、ヨーロッパをひとつの統一体として扱うことは実情とは合致しません。ヨーロッパの実態は統一体ではないのです。実際は下記のとおり4つのヨーロッパに分けられます。
大西洋ヨーロッパ
イギリスなどの大西洋と北海に面する諸国です。過去500年にわたって帝国列強として君臨しました。
中央ヨーロッパ
基本的にはドイツとイタリアで構成されます。これらの国が近代的な国民国家として統一されたのは19世紀末です。この2国が国益を主張したことから、20世紀の2回の世界大戦がもたらされました。
東ヨーロッパ
バルト海と黒海に挟まれた諸国です。ソビエト軍に占領された経験をとおして、国家としてのアイデンティティを醸成しました。
スカンジナビア諸国
ノルウェーやスウェーデンなどが該当します。これらの国はヨーロッパ大陸に対して大きな影響力を有していません。第二次世界大戦後、NATO軍が創設され、のちにEUへ発展するEEC(欧州経済共同体)も設立されました。しかし、EUが発足し、統一通貨ユーロが導入された今日にあっても、国家主権は独立しています。
そのためヨーロッパは統一的な防衛政策や外交政策を打ち出したことが一度もありません。いま、EUの水面下ではヨーロッパの旧来の国家主義が、ゆっくりと台頭しはじめています。このことが、EU加盟国間の経済協議にも反映されつつあります。フランスは国内農業を過当競争から保護する権利を主張し、イギリスはEUからの離脱を決定しました。
もはやヨーロッパをひとつの統一体として扱うことは難しくなっています。そして、もっとも注目すべきはドイツの動向です。仮にドイツがEUの現状に嫌気がさして、他のヨーロッパ諸国と訣別し、昔ながらの単独の武力外交を展開するようならば、EUは解体に向かい、統一通貨ユーロの価値は大幅に下落すると予想されます。FXトレーダーの方へは、EUにおけるドイツの動向をもっとも注視されることを、おすすめします。
不良債権問題
ユーロ圏全体の経済は好調であっても、一部の国では、いまだに不良債権問題が残っています。とくにギリシャです。ギリシャの不良債権比率は6%台であり、EU全体の不良債権比率は4%台と高水準です。このため、まだEUの債務危機問題が解決したとは断定できず、再び債務危機が再燃し、ユーロ安が進行する可能性も存在しているのです。FXトレーダーの方へは、EUの債務水準には注意を払うことをおすすめしたいと思います。